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東海村の村長は声をふるわせた。「原発には出ていってほしいという気持ちです」
おお、出ていってほしいのは分かった、で、どこに行ってほしいんだい。「オウム問題」とあま
りに図式的に同じなので苦笑してしまった。
善良な一般信者、元信者が住もうとするだけで、どこへ行っても「オウムは出てけ」。行政も
つるんでムラハチブ、転入届すら受け付けてもらえない。
この不当な迫害、明白な憲法違反を当然のことのように首肯する国民感情にはウンザリだ。
わたしたちは、オウム真理教の教義がどんなものか興味を持っていないが、いずれにせよ、
それが「良い」ものであれ「悪い」ものであれ、信者がそれを信じる自由は自由だ。
わたしたちは、オウム真理教に対して、支持もしないし、攻撃もしない。ただ、それとは無関係
に、保証された自由を不当におかすあなたがたのことは不快に思うし、さらには愚劣だと思う。
以前にも引用したが、サリン事件の被害者でありながら、一時は被疑者とされた「二重の被
害者」河野さんも、こう警告している:
ですから、誰が制裁するかというところがあると思うんですね。これは法律、自分たちのルー
ルですかね、やはりきちっとした裁判において裁判所がそれを下すというルールになってるん
ですけど、実際にはもう早々と世の中の人たちが制裁してしまっている。
和歌山に行ったときもそうなんですけれども、林さんの塀にもう落書きがいっぱいある、これ
はもう器物破損罪なんですよね、ところがこれをみんなが認めちゃってるんですよね、これもな
んかちょっと怖いです。考えてみれば。
オウム真理教の関係者がビラを配ろうとマンションの集合郵便受けのところに入っただけで
「住居侵入」と称して逮捕するくせに、住まいの壁にひどいことを書き殴る大衆は容認される。
公安当局は必ずしも正当とは思えないふしがある。「最近、警察官の不祥事が増えているの
をうけ再発防止のために規則の見直しを……」そーゆー話はガキのころから何度も何度も繰
り返し聞いたぞ。何回「再発防止」してもダメなのね。
まぁそれはともかく、麻原さんの裁判の傍聴券が初めて無抽選になったのと、東海村の臨界
事故がぴったり同期していたのには驚いた。要するにマスコミも大衆もよりショッキングなニュ
ースに飢えているんだな。毒ガスの話、初めは新鮮だったけど、もう飽きてきた、今度は放射
能漏れだ。
「福は内、鬼は外」。仲間内から外に追い出すだけで、行き先までは考えない。全体のことを
考えない。とにかく自分が安全ならそれでいい。じつに人間的だね。
そしてマスコミのセンセーショナリズム、それに踊らされる大衆、踊ってくれるからもっとセン
セーショナルになる商業主義のマスコミ。この無限フィードバックはどこまで続くのだろう。
原発に出ていってほしいなら、原発をなくすことを論じ、代替エネルギーを論じ、省エネを論じ
よ。
オウムに出ていってほしいなら、もし仮に相手がそれほどの絶対悪なのなら、組織解散のあ
との信者の社会復帰を論じ、元信者であったことを理由に差別されないことを保証する方法を
論じよ。
風評だけで「出てけ、出てけ」と騒ぎ立てる群集心理は愚昧きわまる。
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