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〔Wired News 4/14〕 先月観測されたクエーサー(太陽の100億倍の大きさを持つ)が、現在知
られている「宇宙でいちばん遠い天体」だ。Sloan Digital Sky Survey(SDSS) に属する天文学 者がそう語った。このクエーサーは、観測可能な限界ぎりぎりのところに存在したという。
この明るい赤いクエーサー(超大型のブラックホールだという)は、約280億光年の距離にあ
ると推定された。
クエーサーは、非常に明るい星のように見えるが、実際には、形成中の銀河の中心にあるブ
ラックホールだと考えられている。誕生期の銀河が放出する極端に明るい光は、中心にあるブ ラックホールに吸い込まれる巨大な質量によって生成される。
銀河の形成の初期段階において発見されるということは、クエーサーが宇宙の初期の(従っ
て遠方の)天体であることを意味する。ある天文学者によれば、クエーサーの大きさは、太陽 の百億倍にも及ぶ。これに対して、我々の銀河系(天の川)の中心にあるブラックホールは、 太陽の300万倍ほどの質量しかない。
このクエーサーからの光は、悠久の時空を旅してきたものであり、宇宙の年齢が10億歳に満
たなかったころのものだという。
当時、クエーサーとの幾何学的距離は、40億光年ほどであったろう。それから130億年を経
て(宇宙の年齢は140億年±数十億年と考えられている)、クエーサーは、現在、280億光年の かなたまで遠ざかってしまった。
そして、今なお、光の二倍の速度で我々から遠ざかりつつあるという。
アインシュタインの相対性理論によれば、光の速度は一定であるが、これは、空間そのもの
の膨張速度に制限を設けるものではないという。
天文学者は、現在、地球上で最大の天体望遠鏡(ハワイの10メートルKeck望遠鏡)を使っ
て、このクエーサーが、赤方偏移から計算する限りにおいて、最も遠距離に存在する既知の天 体であることを確認した。
赤方偏移は、宇宙での距離の目安とされるものだ。宇宙は膨張しているので、遠方の天体
から発せられた光のスペクトルは、赤の方にずれる。ずれ方が大きいほどその天体は高速に 遠ざかっており、従ってより遠方にあると考えられる。
今回、観測されたクエーサーは、赤方偏移が5.8であり、これまで知られた最も大きい赤方偏
移だ(赤方偏移の値が4を越えることは珍しい)。
これまで最も遠くにあると考えられていた天体の赤方偏移は5.7だった。これはハワイ大学と
ケンブリッジ大学付属天文学研究所の天文学者たちが、1999年に発見したものだ。
「ぞくぞくするような発見だ」 California Institute of Technology の天体物理学者リチャー
ド・エリスは言う。「ただ、この記録もそう長くはもたないだろう」
エリスによれば、SUNY Stony Brook の天文学者 Ken Lanzetta は、すでに赤方偏移が6
を越える天体を発見しているかもしれない。ただし、スペクトルがまだ確認されていないのだと いう。
「クエーサーは、じつは最遠方の天体ではないのかもしれない」と、エリスは言う。「たしかに
赤方偏移は大きい。だがそれを距離の遠さの証拠としていいのかどうかが、よく分からない」
いちばん重要な点は、非常に遠距離にある天体が、Sloan survey(今後5年間で、天球の4
分の1の範囲の地図を作ろうという野心的な試み)でいくつも見つかっているということだ。
Sloan survey 以前には、遠方にあるクエーサーというのは珍しい存在だった。Sloan
survey が開始されると、たちまち千ものクエーサーが発見され、遠方にあるクエーサーの数 は二倍に増えた。
天文学者は、サーベイが完了する前に千以上のクエーサーが見つかるだろうと期待してい
る。そして、最も遠方にあるクエーサーの3分の2は、同定されるだろうと。
クエーサー(Quasar)……quasi-stellar radio source「準恒星状電波源」を縮めた語。「準星」ともいう。青く、星
のようにみえる天体で、強い電波を放射し、光のスペクトルが赤いほうにずれる赤方偏移がみられる。1950年代末に 強い電波の放射源として確認された。1963年には、天文学者マーテン・シュミットが、クエーサー3C 273のスペクト ルの中のまだ同定されていない輝線が、どの天体でみられたよりも大きな赤方偏移を示すことを発見した。赤方偏移 はドップラー効果によって生じる。天体が宇宙の膨張のために地球から遠ざかると、天体の発した光の波長は赤い ほうへとずれる。これを宇宙論では赤方偏移とよび、どのくらい赤方偏移しているかを測定することで、天体の後退速 度を計算することができるとされる。「宇宙の膨張による天体の後退速度はその天体の距離に比例する」というハッ ブルの法則に従えば、クエーサー3C 273は地球から15億光年の距離にあることになる。
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