スマートな知能:ブーツトラッピング


 真空管でコンピュータが作れたらしいから、今のコンピュータ技術でも、百万人のエンジニア
が百万日かけて部品をつなぎあわせ、人間界に関するありとあらゆる知識をインプットすれ
ば、「人工知能めいたもの」は作れるかもしれない。
 音声入力・合成音声は、もう実用化されている。あなたの質問を正規化して何を尋ねられた
のか理解すること(これは機械翻訳での中間言語の生成に相当する)。あとはcase文。
 あなたが思いつくかもしれない百万通りの質問に対して、こっちは十億通りの質問に対応で
きるライブラリを持っているなら、人間の友達以上に会話が弾むかもしれない。
 簡単な学習機能くらいつける。知らない言葉があれば、「それはどういう意味か」と尋ね、いち
おう記憶しておくとか。

 しかし、なにも直接そんな「優秀な知能」を書く必要もない。我々は、無知な三歳児を作れば
充分だ。
 三歳児は、世界について、ほとんど何も知らない。しかし学習し、成長することができる。三
歳児の限られたコミュニケーション能力は、自分の知識を増やし、ひいてはコミュニケーション
能力を増やし、学習能力を高めてゆくだけの潜在性を持っている。
 自分で自分を成長させられる潜在能力という意味で、伝統的に、この特性を「ブート・ストラッ
プ」(自分のはいている靴のひもをつかみ、自分で自分を持ち上げる)と呼ぶ。

 バイオテクノロジーが「学習」の本質を原子レベルで定式化し、次にその「構造」をナノテクノ
ロジーによってコンピュータに移植できれば……。
 不死の生命体は、無限に学習を続け、数学や物理学のあらゆる問題を研究しつづけるだろ
う。何のためにかは知らないが。


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