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少女革命ウテナについては文脈があった。わたしの世代の少女マンガ読みなら一目瞭然の
「郷愁」。
みなしごの女の子、悲しみに暮れているところに突然あらわれ励ましてくれる謎に包まれた
王子様、女の子は大きくなっても王子様との再会を夢見つづける……。
上記の世代の人にとっては説明の必要は、ないだろう。マンガの「キャンディー☆キャンディ
ー」である。
そしてもうひとつの大ヒット作。薔薇、男装の麗人、剣、革命、悲劇の「王妃」……。
これも同時代ですなぁ。キャンディー・キャンディーとベルばらのミックス、これは、もうポストエ
ヴァとかの文脈じゃなくて、アニメ化決定前のさいとうちほのマンガがやってくれてる。
宮崎なんとかとか、日本のアニメ界の偉い人がいくら結集しても、それだけでは、たぶん、こ
の味は出せなかったでしょう。ベストセラー系少女マンガの独自の文脈だから。
で、もうひとつ、さいとうちほが明らかにイメージしてるっぽいのは、あしべゆうほの「悪魔(デ
ィモス)の花嫁」。
キャンディー・キャンディーやベルばらに比べれば少し純マンガよりですが、ほぼ同時代で、
ものすごく重版されたベストセラー。神話にたくした兄と妹の純愛もの。
神話的イメージと妹が「天罰」で苦しんでるところが、本歌取り。
ちなみに、ウテナのアンシーは、なんか槍か剣みたいのが四方八方からからだに突き刺さっ
て宙づりみたいになってる絵、悪魔の花嫁のヴィーナスは、縄で縛られて逆さにつるされ、片目 が腐って落ちている絵だったと思います。
兄貴のほうの名は、前者ディオス、後者ディモスでした。
要するに、「なんのとりえもない、そばかす顔のわたしのところに、白馬の王子が来たぜい」と
「きゃーオスカルさま〜」と「お兄様☆」の、あの世代の少女マンガの三要素がそれぞれ少しず つ詰まってるわけです。ウテナは。
最終回を、したがってストーリー全体を要約すると、要するに「悪魔の花嫁」のヴィーナスが兄
の束縛から解放され、ひとりだちした話。
「えーそれじゃあディモス(ウテナではディオス)がかわいそう」という声は出るでしょう、わたし
もそれは少し感じました。暁生(あきお)がどうなるのか、アンシーに捨てられたあと未処理のま ま放ってラストになってしまうから。
ただ、ウテナでは、あの兄は、ふたつに分裂している。妹を解放しようとしている天使的なディ
オスと、妹を束縛している悪魔的な暁生。この分裂については説明なしですが、ムードで見れ ます。
ま、どうしても割り切りたければ、兄のこころのなかのふたつの力動を2人格に象徴してい
る、とでも。いずれにせよ、暁生の本心はディオスだった、ということでなんとなくいいかも。
暁生は「自分は明けの明星、金星、光、ルシファーだ」と言っていて、この表現にも二重性が
現れていますが、それはともかく、金星を出されると、やっぱり「悪魔の花嫁」を連想してしまい ます。
「薔薇の花嫁」も「悪魔の花嫁」という題名の本歌取りか。
兄のもとを去るアンシー。これは、広い意味での「女性解放」というか「自由意思の尊重」とい
うかで、健康的に見れます。
兄のもとを去ってウテナを探す旅に出る、「わたしは必ずあなたを見つけられる」という雰囲
気(愛のちからってか)で、百合な人も充分満足できるラストでしょう。
オスカルもキャンディーも男に依存した存在だったことを考えると、アンシーは今風で良いと。
(エヴァでも、綾波がいちおう主人公の碇シンジを食ってて、女性解放だぜ、今時の女は強い のだってな感じでした)
「お兄様」な人だけは、あのラストはいやんでしょうが、ま、お兄様な人にとってもラストを別に
すれば充分に楽しめたでしょう。
また、アニメ版の絵は、明らかに百合ごころにこびてますね。ウテナとアンシーがあやしげ
で。ラストだけ健康的でも、つくツボはついている。
服とかオスカルっぽいけど、全体のテーマは、「アルトの声の少女」。とくに「あんなに熱心だ
ったのに、時間がたつとけろっと忘れてしまう」というモチーフへのこだわり。
その味気なさの乾いた砂の感触の描き方は小手先だけですが(実際のストーリーを走らせず
に二三の会話だけで「忘れた」ことにして済ませてしまう)、それなりに効果は出てました。
アニメ版、全体としてはよくできていると思います。とくにヒット作は影絵少女。影絵の劇中劇
は、アニメだからこそおもしろいユニークな表現(マンガ版には出ない)。
次回予告の最後でアンシーがシリアスに決める「絶対運命黙示録」という結びまで最後には
パロディーにしてました。
基本的にギャグは何でも好きなので、とくにこういう新しいことは好きです。
少女マンガの世界では、女の子が男装して剣を持って戦うたぐいは、ひとつの定番です。
そのことについての立ち入った分析は省いて、実際上の問題として、この「疑似少年」が「女
の子」とラブラブな関係になったとき、ストーリーにどう決着をつけるかが問題です。
ウテナの場合「姫を救う王子(勇者)様」という構図を革命して、「女だって人を救うことができ
るし、自分で決断して歩いてゆけるのだ」とアピールしていますが、これもまた、ひとつのモダン な立場でしょう。結局、ウテナとアンシーは親友ってことに。
同性であやしくなったとき、きれいに終わらせる定番中の定番は、片一方を殺すこと。
ウテナもラストで、いったんウテナを退場させているので、効果上、似た面もあります。親友と
言っても、具体的に描写するとつまらなくなりそうですから。
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