アストロロギアの天文学的スケール


 宇宙のような巨大な現象を、地上の尺度でとらえるとき、例えば1°の数万分の一というわず
かな角度が、実際には数億キロメートルの天界の距離を見こんでいる。

 天文学的な巨大なスケールを、小さな我々が扱うということは、対象としては巨大への探求で
あり、方法論としては微小への探求だ。
 宇宙全体という巨大なものを地上に写像すれば、どうしたって、そういう結果になる。

 星占いというのは星(天体など)の位置をもとにしてあれこれするものだから、星の位置を正
しく把握していなければ、始まらない。
 ある時刻に月や惑星が何座の何度の方角にあるか? というのは、占いを信じる・信じない
などとは関係ない位置天文学の話になる。

 昔の星占いソフトというのは――少なくとも個人が使えるようなパソコン用のプログラムは―
―当然、今と比べて機能に制約が多かった。
 もちろん占い=人生相談のような複雑なことを20世紀の単純なアルゴリズムにくめるわけも
ないのだけれど、それ以前の問題として、星占いの星占いたるゆえんであるホロスコープの描
画、つまり天体位置計算が、はなはだおそまつだった。いや、おそまつ以前、計算をしていな
かった、というべきだろう。
 つまり、大型コンピュータか何かで前もって惑星の軌道計算をして作ったデータベース(大き
な天体位置表)をそのままデータファイルとして記憶していて、何年何月何日の惑星の位置
は? というデータが必要なると、そのどでかい表のなかから、その日付の位置を調べてい
た。
 星占いの実務経験がある人なら「エフェメリスを調べてホロスコープをかく」といえば、何のこ
とだがすぐ分かるだろう。在来の星占いソフトもそれをやっていた。世の中それが当たり前だと
思っていたらしい。

「マイコン」でBASIC……といった解析計算だと計算時間がかかりすぎる時代には、選択の余地があまりなかった
が、パソコンの性能が向上しても、なかなか新しいアルゴリズムは試されないでいたようだ。

 この方法は、窮極的には正しい。
 例えば千年間の星の位置が時間の1秒ごとに、いちいち表に出ていて、位置の精度が1マイ
クロ秒角――というような窮極のエフェメリスをデータベースとして使えるなら、それはそれでい
いし、近未来的には、実際、ネットワークプログラミングで、そういう形になると思う(高速常時
接続が当然になれば、データをローカルに置いておく必要もない)。
 けれど、20世紀のパソコンに、そんな巨大なデータベースを入れるスペースはなくて、当時
の占いソフトは、比較的短期間の天体位置データを概略位置で持っていたにすぎない(それで
もデータファイルは数メガバイトから数十メガバイトになる)。

 アストロロギアが提案した新しいやり方(当時としては新しかった。今では、それほど新しいわ
けでもないし、位置天文学の世界では、もともと古典的なものだったが)、それを簡単にいうな
ら「そんなでかい表を記憶させてディスクを無駄遣いしなくても、その表の作り方を実装しとけば
いいじゃん」ということ、プログラマのかたになら「動的にできることは動的にやったほうがいい
でしょう」と言えば通じるでしょう。
 実際、当時の星占いソフトの精度(角度の分単位)でいいなら、せいぜい百行かそこらの解
析的アルゴリズムで置き換えられる。ちなみに、それは三角関数の一次結合がだらだら続く形
をしていて、三角関数の引数(ひきすう)は時間の一次式、三角関数の(微小な)係数はその項
が示す振幅の大きさ……くだいていうなら、まずは円運動で近似しておいて(いわゆる平均位
置。0度〜360度の角度のなかでは単純な等速運動、つまり時間に比例して角度が増える一
次式)、それに対する他天体からの摂動(せつどう)をちょっとずつ補正していく形になる。
 この計算については、いろんな式が公開されているから、それを使えば良い。今では世界中
にたくさんある星占い系のインタラクティブなサイトで、手軽に JavaScript などでやってる、そ
んな程度の計算なのに、わざわざ計算結果をでかい表にして実装し、そのソフトを数千円だか
数万円だかで売りつける、というのが、まかり通っていた。


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