「あまりに正しすぎる?」アストロロギア


 そんなわけで、単純な解析的アルゴリズムを実装するだけで、当時としては意味があったと
思う。が、アストロロギアは、解析的にやる、ということと同時に、一気に精度を二桁あげる、と
いうことをやったので、かえって話がややこしくなった面がある。
 今からみるとちょっとおかしいけれど、当時はアストロロギアの精度が「過剰」である、という
見方があった。「そんな高精度の計算をしても、占いの精度が上がるわけではない」といった筋
違いの議論がおきてしまった。――作者自身は、アストロロギアの精度が「過剰」どころか不充
分であることを感じていた。
 2004年の開発者ならわりとすぐ同意すると思うが、留(りゅう)の正確な時刻とか、遠い惑星
の正確なイングレス・タイムを知りたいというとき、角度の1秒では不満足で、0.01秒がほしく、ミ
リ秒角だと現時点では理想という感じだろう。

 ともあれ、当時の世の中は角度の分の世界で、角度の1秒の世界というのが、当時として
は、作者の夢だった。計算者以外は実感できないだろうが、誤差±6秒くらいまではわりと簡
単に行ける。これは天測航海で実際に必要な精度でもあるようで、海上保安庁が作った計算
式もある。
 けれどその先がつらい道で、ふつうは±3秒程度で行き詰まる。±1秒以内、というのは、ひ
とすじなわでは行かない世界だ。
 係数行列をぜんぶダウンロードしてコピペできる今どきの学生であってさえ、まずコピペだけ
でもけっこう大変な量があるし、また、太陽中心座標の幾何学位置から地球中心座標の視位
置までもってくるのは、光の速さの有限性がからんだりする魑魅魍魎(ちみもうりょう)の計算過
程だが、ましてや当時の作者にはネットワーク環境がなく、数値は全部、手で入力したばかり
か、関数電卓を叩いて筆算で計算もした……。まぁ、そうやってまじめに熱心に作ったものでは
あるが、今から見ると、まだ精度が物足りない。
 参考までにいうと、高精度の摂動計算では、上述のような三角関数の一次結合だけでなく二
次や三次……の項も考慮したりする(三角関数の係数が定数でなく、そこに時間がかけ算され
る)。

 日常生活では角度の1°なんていうのは細かい値で、1°の3600分の1にあたる1秒角な
んかは問題にならないが、なにせ天体の軌道というのはスケールが違う。
 地球の公転周期は1年、ということは、だいたい1日24時間で1°しか動かないわけで、何
時何分のホロスコープ、というときは、その1°の24分の1のそのまた60分の1とかの話にな
る。
 位置が1°ずれている、ということは、計算が24時間もずれていることで、そんなんじゃ、何
座生まれかさえ、あやしくなってくる。何十年もかかって太陽のまわりを一周する遠い惑星で
は、角度のわずかな差がとんでもない時間差にあたる。


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