アストロロギアの新問題


 20世紀後半の占星術では、角度の分(60分の1°)単位の計算がふつうで、ハーモニクス
計算以外は、それでだいたいだいじょうぶだった。
 ただ、実務を重ねればだれでも経験することと思うが、たまに星座の境界近くにあってどっち
の星座に入るのかよくわからん天体、というのがあって、もう少しエフェメリスの精度が高けれ
ばこんなとき助かるんだがなぁ……と思ったりする。これが「古い問題」だ。

 アストロロギアの精度もまだ不充分だ、と書いた。単に摂動計算の部分についていうなら、理
論を完全に実装すればもっと精度が上がるわけで、それは馬力のある若い開発者がやると思
う。
 が、問題は、もっと複雑だ。チャートの精度が0.1秒角より先のオーダに入ると、もはや摂動
計算の精度だけでは、すまされなくなってくる。いろんなことがあやしくなってきて、物事を不確
実にする。
 例えばアセンダントを決めるのにも、まず地球楕円体をどうとるか?が問題になるし(そもそ
も地球を楕円体と仮定することの是非もある)、測地経緯度なのか天文経緯度なのか、また、
大気による光の屈折は補正しないけれど重力による相対論的効果の曲がりのほうは考慮する
のか?といった問題、さらには太陽系力学時、地球力学時、UT系の関係、座標系はFK5でい
いのかという問題、天文定数系もあやしいし、章動理論も必ずしも完成されているとは言えな
いし、だいいち、いまだにある種の天体は、観測される位置と理論値が1秒角ずれてたりす
る。
 だから純粋理論的に0.0何秒角の摂動計算をしても、ある意味ナンセンスだ。なお、このオ
ーダになると解析解より数値的解法のほうが適切だろう。

 このあたりが新しい問題で、「この略算式では精度が不足だ」といった単純な話でなく、最新
の科学的知見と最高の計算技術をもってしても理論と観測が一致しない、将来の観測値を保
証するいかなる公式もまだ存在しない、という体系化途上の不可知に直面することになる。

 計算者にとって、絶対的不可知論は哲学上の思弁ではなく、経験にもとづく実感だ。


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