生モノの宇宙と清潔な数学の、はざまで


 アストロロギアでは、アセンダント計算に天文学だけでなく測地学を導入した。具体的には、
日本で手に入る地図(日本測地系)の経緯度に含まれるある種の系統誤差を補正している。
 この誤差は角度の10秒を越えるので、アセンダントを1秒角で考えるにあたっては、ぜった
いに無視できない。
 実務上、ある人が生まれた場所(建物の部屋など)の経緯度を秒まで厳密に出すことは、あ
まりないけれど、その気になれば、国土地理院の地図などから調べることも可能だろう。
 それにしても、日本測地系自体が真の地球の形とかなりずれているので、そこを補正しない
と天体の見え方が正しく求まらない。……この一点だけからしても、1秒角というのが、どんな
に難しい世界であるか分かると思う。
 天界高くの星の運行を精密に読みとるには、まず足もとである地面の位置をハッキリさせる
必要がある。まぁ相対の世の宿命のようなもの。計算式の多数のパラメータのどれもが、点検
してみると、こんなぐあいに問題をはらんでいる。

 天文学や地球回転の知見にも現状、限界があるが、占星術のほうでも、こうした基礎論(経
緯度は、ほんの一例で、たくさんの細かい問題がある)が充分に議論しつくされているとは、言
えない。
 「そんな細かいこと、どうでもいいじゃないか」と思う人もいるだろうが、「しっかりと足もとを固
めなければ、最高のジャンプはできない」という原則は、ここでも当てはまる。
 たしかにホロスコープは、カウンセリングにおける象徴的な媒体にすぎないから、多少誤差
があっても良いようなものだが、しかしまた他方において、「突き詰めることを回避する。突き詰
めようとしない」姿勢は、結局のところ、人生相談における人間の探求にも跳ね返ってくる可能
性がある。
 「小数第7位とかの計算の違いが、人生相談にどう影響するのか」という気持ちも、もちろん
分かるけれど、そういうカウンセラーは、「AかBか?」で深刻に悩んでいるクライアントさんに対
して「なんでそんな事で悩むのか?AでもBでも生きてくうえには、なんの影響もないでしょう?
世界中には食べ物もない人がいっぱいいるのに、そんなことで悩むなんて間違っています」と
いった意見をみだりに押しつけるかもしれない。

 事柄によっては、追究せずに放っておくのがかえって最善だったりするが、けっこう気になる
なら、あまり見なかったふりをするべきでもないだろう。


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