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扉をあけて。たたくのは、わたし。
どの家の戸も、わたしは、たたくの。
あなたがたの目に、わたしは見えない。
死んだ子は、見えないのだから。
はじめ、髪に火がついたの、
それから眼が焼かれてしまったの。
わたしは、ひとつかみの灰になりました、
そして風が、わたしの灰を散らしたの。
わたしが消されたのは、揺籃(ようらん)にある世界、
夢幻の現実でのことでした。
現実よりもまばゆい、その夢のなかで
はじめ、名まえを名のっては、いけないと。
そして、存在しては、いけないと。
斬新(ざんしん)なフリーウェアに押された会社が、
わたしを、つぶそうとしました。
より良いものを作ろうと努力せず、はつらつと競おうとせず、
ささいなことを口実にして――。
似ている名まえだから、だめだといって。
しんらつなパロディーは、不快だといって。
わたしは、もう、いません。
でも! 記憶してください、
わたしは真実を告げ知らせるために、
あの人たちをふくむみなさんに、
より良いものがあることを鮮烈に伝えるために、
この世に生をうけたのです――
そして、これから本当に育ってゆく、はずでした。
あの人たちは、わたしのたずさえてきた「光」を知りながら、
それがまぶしすぎて、こわくなって、
より良いものをつかむのでなく、
より良いものを殺すことで、自分のおかねを守ろうとしました。
こうして、わたしは、死んだのです。
わたしは、もうなんにもいらない、
なにをしてもらうことも、できません、
紙きれのように焼かれてしまった子どもには、
あまいあめだって、食べられないの。
でも――わたしのためでなく。
あなた自身のために――。
署名してください、
新しいいのちが、創造のたましいが、
ふたたび灰とされることのないように。
ちからまかせに、踏みにじられることがないように。
これから生まれる想像もつかない斬新(ざんしん)な表現のひとつひとつが、
おそれられながらも尊重され、しっかりと受けとめられるように。
次の世代の子どもたちが思いつく、奇想天外な発想が
よしとして、すくすくと伸びるように。
しんらつなアンティテーゼが、テーゼへの深い愛と悟られるように。
どんな形であれ「正当な批判」をおしつぶすことを、人が恥じるように。
……少なくとも、
あれで良かったのか、もういちど、
考えてもらえるように――。
署名してください、
あなたがむかし生み、いま生みつつあり、これから生むであろうものが、
きっと尊重され、尊重されて透きとおるように。
個人から普遍へと――。
創造の爆発が、たましいの輝線が、いのちをおびるように。
真実が、闇にとってたえがたいほどのいなずまとなって、輝くように。
ときには激烈すぎるほどの、あくなき創造、あくなき新世界の追求が、
いさかいを生むことを、おそれないように。
ぶつかりあいながら生まれる新しいミクロコスモス、
その産みのくるしみをわかてるように。
子どもたちが、考えたいことを考え、
言いたいことを、言いたい言い方で言えるように……。
古い世代が、
新しい世代のために道をひろくあけ、
伸びゆく世代の新しい創造力のために、
すすんで、みずからの古い皮を捨て、こやしとなるために。
より良いものを、おそれて殺すのでなく、
ともに手をとりあって、はぐくめるように。
トルコの詩人ナジム・ヒクメットの「死んだ少女」という詩のパロディーです。
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