言霊使いの自ら歌った謡(うた)


「ノ・ニーン、
さればさあ、さっそく歌い始めよう、
白い魔法を知らしめよう!」

こう言うと、言霊(ことだま)使いは、心をこめし言葉を凝(こ)らし、
翼ある、言葉を告げて、続けるよう、

「花びらの上に寝そべること、
銀河をそっと手にすくうこと、
猫語を話すこと、
小鳥の心話(こえ)を聞くこと、
ホットミルクの膜の上でお昼寝すること、
ミルククラウンを頭の上にかぶること、ニーン‥

しっぽをピンと立てること、
しっぽをぐるりと回すこと、
しっぽで疑問符(はてな)を作ること、
難しい考えごとをしながら、ついしっぽに結び目をこしらえてしまい、ほどくのに苦労すること、
ニーン‥

水に映った三日月を、パキンと割って食べること、
(みいい味!)
星をカリカリかじること、
(ふみい味!)
彗星のしっぽの中をシャリシャリ歩くこと、ニーン‥

たんぽぽの綿毛につかまって空を飛ぶこと、
空の虹を細長く裂いて、いろいろな色のきれいなリボンを作ること、
それらをみつ編みにして、あやとりのひもにすること、
月の光を蒸留して、黄金(きん)の蜜酒(みつしゅ)を密造すること、
オーロラを空からはがしてきて、
ボートネックのフェアリードレスを縫うこと、
ホーキ星をつかまえて虫カゴで飼うこと、
(逃げられないように注意! ノ・ニーン!)

1秒の単位を伸び縮みさせること、
友達と180億年後の待ち合わせの約束をすること、
みんなが寝てる間(ま)に星をならびかえて、勝手な星座を作ること、
土星のわっかをかっぱらい、
冷蔵庫にしまっておくこと、ニーン‥

限りなく澄んだものを思い浮かべること、
うすべに色のパステルで、
青いガラスびんを写実的に描(えが)くこと、
《愛する》が、ついに自動詞であったと気づくこと、
(《眠る》のように‥!)
《愛しています》と告白すること、
《かぐわしき大地》(テ・ナヴェ・ナヴェ・フェヌア)と囁くこと、
《すばらしき緑の土地》(イハナ・ヴィヒレア・マー)と呟くこと、
《おれはトナカイだ!》(モン・リヤン・プワッソ)と叫ぶこと、
見えない物を観、聞こえない音を聴き、香らない香りを嗅ぐこと、ニーン、ティエテンキン‥

雪の中で立ち止まること、沈黙(しじま)のさまざまな音色(ねいろ)を味わうこと、
夕暮れの不思議な匂いを聞くこと、
心の目を凝らし、金色の西風を見ること、
風の中のシルフィードに呼びかけること、
心の耳を澄まし、森が夢みているのを聴くこと、
フェアリーリングの中で、世界一上手にダンスを踊ること、銀色の星の輪を腕にはめ、ニーン


春の野ずえのような灰緑色の瞳を持つこと、
日の光を浴びて、背中の羽を虹色にきらめかすこと、
夕星(ゆうづつ)の光を編みあげたような、淡い色に輝く髪を、
夢のように風になびかせていること、
見るために目をつぶり、聞くために耳をふさぐこと、
夜空を彩る15色の夜の虹、
そして、極地の空に舞う257色の極光(オーロラ)、
銀河のしぶきに耀(かがよ)う6万6049色の宇宙虹(オーリオラ)、ニーン‥!

花の中で眠ること、
(ばら色のそよ風‥)
つりがね草の花の音を聞くこと、
(フィ・リン‥)
世界はおまえのおもちゃだったと思い出すこと、
夢みること、常に、夢みること、
(悲しみは幸せの食前酒、
試練(くるしみ)は姿を変えた祝福だと知ること、)
自分自身を楽しむこと、
この嘘っこ歌を上回る嘘っこ歌を、歌い歌って歌い継(つ)ぎ、
この謡(うた)の続きを続けること、すなわち‥

0歳から999歳までの子どもたち!
しっぽにリボン、心に翼、
嘘っこ歌をいつまでも!」

       と

言霊(ことだま)使いは自ら言葉を綴(つづ)って、
言の葉の杖(つえ)を自ら使って、
こう物語りました、
 ‥とさ。


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