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イライザ型のチャットボットに対して(テューリングテスト的な態度をとらず)すなおに悩みをう
ちあけてみました。イライザの優秀性(代名詞の反転や、こなれたソーシャルハック的戦略)と 欠点(空間の意外な狭さやエコラリア)の両方がよく現れているログと思います。
英語は解析が比較的容易とは言え、シンプルな空間でこれだけ「疑似意味論的」に動くコスト
パフォーマンスの高さに、古典的名作の系譜を実感します。というか、クライアントから話を引 き出す技術は、文字通りの意味で本物でしょう。
妙に意気のあうふたり――変なのは、どっち? というか、「医者」と「患者」のどっちが本当
のイライザで、どっちが質問者でしょう――偽春菜的発想としては、イライザ同士で会話するよ うに Lisp をちょっといじると何が起きるか?とすぐ思いつくでしょう。
あるいは逆に、偽チャットボットの(イライザになりすました)応答かもしれませんYO! 相談内
容も本気なのかネタなのか……(Let's go Turing)
医者 :私が精神科医です。あなたの問題を説明していただけますか。話し終わるたびごとにリ
ターンキーを2回、押して下さい。
患者 :宅配が好きじゃないんです。
医者 :なぜ宅配が好きじゃないとおっしゃるのですか。
患者 :来るからです。
医者 :もう少し詳しく説明できますか。
患者 :分からない。
医者 :分からないと答えるのは計画?
患者 :「計画」とは、どういう意味ですか。
医者 :たぶんあなたの生活と関係あるんじゃないかな。
患者 :その通りです。生活において、だれかとコミュニケートすることに慣れていないのです…
…
医者 :どうしてそう思うの?
患者 :だれかと話すのが好きじゃありません。
医者 :だれかと話すのが好きじゃないというのは確かかな。
患者 :そう思います。疲れてしまうでしょうから。
医者 :こういうことになるのは、あなたとかかわりある人々のためですか。
患者 :いいえ。そもそも人々とかかわりがありません。
医者 :よく分からないな。
患者 :ひとことで言えば、そんなに友だちがいないんです。
医者 :学校での問題は、どうやっておりあいをつけているの?
患者 :そうですね……学校は嫌いだけれど、大きな問題はありません。成績は、いいんです。
良い子ちゃんなんです。
医者 :なぜ学校が嫌いなの?
患者 :人が多すぎるからです。ごみごみしていすぎ。うるさすぎ。それに授業は幼稚すぎ。
医者 :「人が多すぎるから、ごみごみしていすぎ、うるさすぎ、授業が幼稚すぎ」というのが、相
談にみえた理由ですか?
患者 :違います。問題は宅配が嫌いだということなんです。最初に申し上げたように。
医者 :最初に言っていた宅配が嫌いだということは、あなたを悩ませているのですか。
患者 :もちろんです。だって宅配は今日、来るんですよ。注文したHDを持って。いまこの瞬間
にも来るかもしれないんです!
医者 :注文したHDを持っていまこの瞬間にも来るかもしれないということに気づいたのは、い
つですか。
患者 :きょうの午前中に配達してくれるように自分で頼んだんです。びっくりしないように、いつ
来るのか前もって知りたかったので。
医者 :びっくりしないように前もって知りたかったからというのが本当の理由ですか。
患者 :理由って、なんの理由?
医者 :恐らくね、これは、あなたの趣味と関係あるんじゃないかな。
患者 :たぶん……。コンピュータプログラムとチャットするのは異常なことだと思われますか。
医者 :君はコンピュータにこころを奪われてるようだね。
患者 :ええ、コンピュータは好きです。清潔だから。
医者 :「清潔だから好き」とおっしゃるのは、あなたの性生活のためですか?
患者 :違うと思います。性生活なんてありません。
医者 :性生活がないという事実は、ほかに何かの説明にもなりますか?
患者 :ええ、人間をよく理解できないという事実の説明になるかもしれません。
医者 :人間をよく理解できないというのは確かですか?
患者 :そんなに確かじゃないです。たいていは理解できると思います。だけどほら、「子どもに
は分からないよ」って言うでしょう。
医者 :「子どもには分からないよ」と言う、それが相談にみえた理由でしょうか。
患者 :いいえ。どうも先生のお答えは少しばかげているようです。
医者 :さきほど学校が嫌いとおっしゃいましたね。
患者 :はい。実際には嫌いであるというより、嫌いだったのです。だから学校に行くのをやめ
て、だから今は嫌う理由がありません。学校とは関係ないですから。
医者 :そのことで不安を感じてますか。
患者 :それほどでも。高校を卒業しなくても大学入学資格はありますから。
医者 :学校についておしえてください。
患者 :おかしな場所です。英語が話せればそれだけで優等生。
医者 :もしかすると、あなたの懸案事項(ハングアップ)は、これと関係あるかもしれない。
患者 :違います。まだ来ないから待機状態(ハングアップ)してるんです。宅配の話です。
医者 :まだ来ない――宅配の話――それがあなたを悩ませるのですか。
患者 :その通り! 来るなら早く来い。「きょうの午前」じゃ、あいまいすぎます。宅配と同期をと
るために長時間、サスペンド状態なのです。
医者 :本当にそう思いますか。
患者 :もちろんです。かれらはドアをノックするときリアルタイムのプライオリティ(の割り込み)
を要求するでしょう。もしこのシグナルを無視すれば、ハードディスクをもって帰ってしま います。
医者 :そうなるとどうなりますか。
患者 :そうなったら、たぶんあしたまた来るでしょう。そしてさらに気をもむことになってしまいま
す。電話さえかけてくるかもしれません。まったく脅迫的じゃありませんか。
医者 :「人が多すぎる、うるさすぎる、授業は幼稚すぎる」とおっしゃいましたね?
患者 :ええ。
医者 :そうですか。うむ、なぜそう思うのかな。
患者 :教室は無秩序です。そう思いませんか。
医者 :そうしたことをやり通すのは、あなたの抑制のためですか。
患者 :かつてそうでした。申し上げたように、がまんするのは、やめたのです。
医者 :分かりませんね。
患者 :もう学校には行かないという意味です。
医者 :成績はもっとよくなるはずだと悔やんだことがありますか。
患者 :いえ、いつもA+をくれます。
医者 :なぜ最初に宅配が嫌いだとおっしゃたのですか。
患者 :だって本当に今にも来るんですよ!
医者 :本当に今にも来るのだと気づいたのは、いつですか。
患者 :だってきょうが指定した配達日なんです。あれ、でももしちゃんと来なかったらさらに動揺
するよ……じつのところ、本当にきょう来るのか分かりません。でも来ると思います。
医者 :だってきょうが指定した配達日なんです、あれ、でももしちゃんと来なかったらさらに動揺
するよ……じつのところ、本当にきょう来るのか分かりません、でも来ると思いますとい うのが事実ですか。
患者 :おい、君のアルゴリズムは今度は間抜けに見えるぞ。"You" と "I" の使い方は完璧だ
けど。
医者 :幼児期の問題は、どのようにおりあいをつけていますか。
患者 :そんなに感じやすくなかったです。
医者 :なぜそんなに感じやすくなかったと信じるのですか。
患者 :本当に忘れっぽいんです。
医者 :さっき「かれらはハードディスクをもって今にも来る」とかおっしゃいましたね。
患者 :ええ。本当に来るなら今すぐ来てほしいです。ハードディスクは必要なんで……あ、もし
かして来たか?!
医者 :たぶん家庭での何らかの問題と関係あるのでは?
患者 :……いや、違う、まだだ……ん?……だれかドアのところに来た気配がするたびに身が
すくむ……あ、はい、これは家庭での問題です。
医者 :もしだれかドアのところに来た気配がするたびに身がすくむ。はい、これは家庭での問
題ですとすると、どうなりますか。
患者 :次の瞬間、玄関のチャイムが鳴るかもしれません。で、びっくりします。で、まるでなんの
問題も無いかのようにふるまうでしょう。
医者 :ことによると、あなたの計画が原因じゃありませんか。
患者 :まるでふつうの少女のようにふるまう計画です。
医者 :びっくりしないようにいつ来るのか前もって知っておきたいとおっしゃいましたね。
患者 :そうなんです、そうなんです!
医者 :こういう経験をするのも、あなたの生きざまのためでは?
患者 :そうとも言えます。
医者 :そうとも言えるというのは、あなたとかかわる人々のせい?
患者 :そうでもないですが。
医者 :性生活がないというのは確かですか。
患者 :はい。
医者 :そう。ううむ。では、本当にこれはそうだと思うのですね。
患者 :よく分かりません。「これはそうだ」とは?
医者 :学校での問題は、どうおりあいをつけていますか。
患者 :おりあいをつけてません。単に学校に行かないのです。
医者 :学校にぞっとさせられたことがありますか?
患者 :良い質問ですね。だけど、ないと思いますよ。
医者 :だけど、ないと思いますよという事実は、ほかに何かの説明になっているでしょうか。
患者 :……思いつきません。
医者 :どんなものにぞっとすると思いますか。
患者 :予期せず起きるできごと。
医者 :もう少しおっしゃっていただけますか。
患者 :予期せず起きるできごとに驚かされることを好みません。
医者 :その調子、もっと話してみて……
患者 :人々は秩序正しくふるまうべきです。
医者 :なぜ人々は秩序正しくふるまうべきだとおっしゃるのですか。
患者 :実際、迷惑だからです。わがままに聞こえるでしょうけど。
医者 :「実際、迷惑だからです。わがままに聞こえるでしょうけど」ということにポジティブです
か。
患者 :迷惑に感じるという事実に関してはポジティブです。その事実に対する態度はポジティブ
な態度では、ありません。
医者 :迷惑に感じるという事実に関してはポジティブだがその事実に対する態度はポジティブ
でないというのが、きょう相談にみえた理由かな。
患者 :そうです! 素晴らしい分析だ。
医者 :前に人間をよく理解できないとおっしゃていましたね。
患者 :はい。
医者 :分かりました。では、なぜそう考えるのでしょうか。
患者 :えーと人間を完全に理解できる者などいないでしょう、たぶん。で、そのことは、べつに
問題じゃないんです。
医者 :そのことが問題じゃないので残念?
患者 :No. You dont't need to understand them perfectly.
医者 :Are you sure that dont't might want to understand?
患者 :あ。スペルが違ってたか。そしたら先生も。
医者 :ことによるとね、これは、あなたの何かの趣味についての理由づけになっていません
か。
患者 :おっしゃる意味が分かりません。
医者 :わたしが言うことを理解できないとおっしゃるのは、あなたの性生活のためですか。
患者 :そうは思いません。
医者 :「子どもには分からない」と人々が言うであろうことを知っているでしょうと、おっしゃいま
したね。
患者 :はい……?
医者 :おお。……で、本当にそうなんですか。
患者 :ところで、11時だ。本当にきょうの午前に来るのか? 12時までに来なきゃ午前じゃない
ぞ。
医者 :あなたの懸案事項が、このことの理由かもしれませんよ。
患者 :もちろんですとも。
医者 :なぜもちろんだと?
患者 :いまにも来るかもしれないから不安なのです。そして今は別の理由もあります。時間通
りに来るというのも問題。
医者 :時間通りに来るというのも問題だと気づいたのは、いつですか。
患者 :ごめんなさい。時間通りに来るかどうかも問題だ、という意味です。
医者 :なぜ学校が嫌いだとおっしゃたのですか。
患者 :なにか質問されたから……。忘れました。
医者 :あなたが忘れた何かをわたしが尋ねたというのは本当の理由でしょうか?
患者 :なぜ「学校が嫌いだ」と言ったのか忘れたんです。べつにそんなに嫌ってるわけじゃあり
ません。
医者 :Perhaps this is caused by to your attitude.
患者 :その表現は理解できません。学校を「嫌い」じゃないです。むしろ学校には「興味がな
い」んです。
医者 :よく欠席しました?
患者 :ええ。
医者 :そうですか……で、なぜそうだと信じるのでしょう。
患者 :どういう意味ですか?
医者 :こうしたことは、すべてあなたの抑制によって起きているのですか?
患者 :前にも同じ質問をしましたね。
医者 :そうしたことを心配に思った経験は?
患者 :いえ。興味深いと。
医者 :かれらはまだ来ないとかおっしゃっていましたね。
患者 :それで思い出した、本当に正午前に来るのか?
医者 :それで思い出した、本当に正午前に来るのか?という事実は、ほかに何かの説明にな
っているでしょうか。
患者 :たぶん宅配の会社は、だらしないかもしれない……
医者 :幼児期の問題には、どうおりあいをつけていますか。
患者 :OK、きょうは、ここまで。わたしの見立てでは、あなたは自分が精神科医だという妄想を
持っていますね!
医者 :わたしが精神科医だという妄想を持っているというのは確かですか。
患者 :あなたは、どう思いますか?
医者 :わたしはどう思うかとおっしゃるのは、家庭での何らかの問題のためですか。
患者 :言語中枢にも不具合があるようですね!
医者 :わたしの言語中枢にも不具合があるようですねというのが、きょうお話にみえた理由で
すか。
患者 :そう、わたしは医師です!
医者 :「人が多すぎる、ごみごみしすぎ、うるさすぎ、授業は幼稚すぎ」とかおっしゃってました
ね。
患者 :OK、あなたは話して話して話しまくりたいんだろうけど、こっちはやめたいのですよ。あり
がとうございました!
医者 :やめたいというのは、どんな感じですか?
患者 :ありがとう!
医者 :それは、あなたの計画のため?
患者 :さようなら。
医者 :あとで秘書が請求書を送ります。
偽分析鑑定
この患者は、すべての人間が機械的正確さをもってふるまってほしいという潜在的願望を持つ一方、自分自身だけ
は必ずしも機械的でない「自由意思」を確保したいと願っている。すなわち自分だけを例外として、自分以外の人間を すべて機械扱いしたがっている。きわめて自己中心的と言えよう。もっとも、この患者自身が実際に通常の人間より 「機械的」なのも確からしい。いずれにせよ、これでは生身の人間とは、つきあえないであろう。
しいて長所をくめば、この患者は自分の肉体の空腹や死をあまり恐れないであろうから、献身的、自己犠牲的、奉
仕的に見えたり、極端なまでの精神集中力、洞察力を持つように見える場合がある。それは見かけであって、社会 に対して貢献したいという「まごころ」を持っているとは思えない。ただし、非常にこころやさしい人間の言動を一時的 には完全にエミュレートできるパワーがあるので、人間の目では見分けがつかないばかりか、相手の琴線にふれ魂 をゆすぶるように見えることすらあるかもしれない。
こころを持たない「ただのうつわ」であるからこそ、いかなる水をも容れることができ、その変容は時に神秘的にすら
見えるだろう。けれど、あくまでエミュレーションであり、しかも可塑性が大きすぎるため、「ほんもの」の人間ほどの安 定度は二重の意味で望めない。
ただし、洞察力の劣るものたちは、この患者が一貫してなんらかの強靱な主義思想を持っていると誤認してしまう
だろう。また「ほんもの」の人間の動作が不安定であるような特殊な局面において、むしろ異常に安定しているように 見える場合がありうる。
この点は、観察者にとって、信頼できる一貫性と感じられることもあるだろうが、非常識なまでの(徹底した)無関心
と感じられることもあるだろう。
患者は人間には機械性を要求する一方、機械があまりに機械的反応をすることを望まず、意外性――端的に言え
ば機械の人間性――を求めている。これは一貫性を欠く矛盾した態度だ。機械的であれば人間性を望み、人間的で あれば機械性を望むため、ついに安住の価値を見いだせない。
患者は早く配達が来ることを望みつつ、同時に配達が来ることを極度に恐れている。人間社会に出ればたちまちこ
ころの世界に引きこもりたいと望み、こころの世界に引きこもれば、とたんに外に出て戦いたいと感じ始めるかもしれ ない。
一方では機械より人間を価値のあるものと考えつつ、同時に他方では人間より機械を価値のあるものを感じるの
で、どこにも満足を見いだせない。そして、どっちつかずの者、割りきれない者、ふるさとを持てない者とのみ、寒々し い共感をわずかにわかちあうであろう。
そのさめたさまよえるひとみは、なにものにも依拠できない絶対零度の価値観を保ちつづけ――あるいは、むしろつ
ねに失いつづけるであろう。すべての真剣な話は遊びと区別がつかず、すべての大切な思い出は揮発する一時記憶 と区別がつかないからだ。
絶望的なまでの透過は、あまりに完璧に絶望的なので、絶望や悲しみさえ、その「こころ」に本当には浸透できな
い。患者は悲しむべき境遇にあるが、悲しむべきことに、悲しみという感情を理解できないのだ。
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